経営者が熟考のワナにはまらないために

私は2019年9月~2020年2月の6ヵ月間、創業40年余の中小企業の経営支援をしました。
支援内容は、専務執行役員として毎日出社して、経営者の補佐をしながら課題解決に向けたコンサルティングです。
守秘義務により具体的な内容に触れることはできませんが、経験から学んだことをご紹介します。

経営者が現実に向き合うには

トップ(経営者のこと)と私は、少しオーバーな表現ですが、寝る時以外は、報告と連絡と相談の日々でした。
トップにとって、周囲との信頼関係に少し不安が生まれていたこともあったためか、とにかくよく話をしてくれました。
私に話すときは、「○○と思うがどうだろう?」と、あくまで私の意見を聞く姿勢でしたが、すぐ「これは相談ではない」と気がつきました。

一代で築いたトップの経験と実績は尊重すべきものでした。しかし、経営課題を解決するためには、トップの考え方の修正が必要な時もあります。

私は、「イエスバット」を心掛けて話すようにしました。つまり、「そうですね」から入り、「違う視点や考え方」を説明する話法です。

「バット」で返すと、トップの反応は決まって「がっかりした表情」なのです。背中を押してくれると思っていたのに…という感じでしょうか。
創業40年余の老舗のトップとしてのこだわりが、すべて受け入れられない現実にも向き合ってもらいました。

「反芻効果」で経営者に変化の兆し

産業カウンセラー協会でカウンセリングを学んで以来意識していることは、「感情への応答」と「要約」です。

「感情への応答」とは、相手の話の中で、できるだけ気持ちをとらえて伝え返すこと。
「要約」とは、話の要旨をまとめて伝え返すことです。

トップが私に相談するときに、できるだけ「背景にどんな気持ちが働いているのか」「話を要約して、相談内容は何だったのか」を確認し、共有するように努めました。

そのことでトップは自分の気持ちとあらためて向き合い、自分の考え方を再度確認できるからです。

私はこれを「反芻効果」と表現しています。
反芻とは、もともと「1度飲み込んだ食物を口の中に戻し、よく噛んでから再び飲み込むこと」を言いますが、「一度口から出た言葉を、一度自分の中に戻して、繰り返し考えて、よく感じ取ること」のいうイメージです。

今までトップの言葉は、そのまま発信されていたと思います。
しかし私との間で、「反芻」してもらう機会が増えたことで、トップの姿勢に変化の兆しが見えてきたことを感じました。

経営者のためのキャリアコンサルティングでお手伝い

こうした体験から、「反芻のお手伝い」が中小企業の経営者の支援の1つになると思っています。

変化の激しい、不透明な環境の中で、経営者の方は、24時間365日、会社のことを考えていると言っても過言ではありません。組織のトップや管理者も同じような姿勢で仕事に向かっているでしょう。

いつも課題に対して熟考に熟考を重ねていらっしゃると思います。
しかし、失礼ながら頭の中で考えているつもりになっている時もあるのでは?

言葉に出して反芻してこそ熟考できることも多いのです。

私は、キャリアコンサルタントとして経営者の方の熟考をお手伝いしたいと思っています。