新入社員の早期定着・成長支援対策を考える

以前の記事に「若者の早期離職防止対策」の1つとして、「セルフ・キャリアドック」制度の活用についてお伝えしました。同制度は、定期的に「キャリアコンサルティング面談」と「研修」を組み合わせて実施する人材育成制度のことで、厚生労働省が推奨しています。
今回は、新入社員の早期定着・成長支援対策として、「すぐに実施できる、意識できる」取り組みをご紹介します。

新入社員の早期離職の実態

「厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況」によると、令和2年度における新規学卒就職者の離職率は、学歴別、卒業年別とも、例年に比べ低下しています。
しかし、新規学卒就職者(平成 30 年3月卒業者)の就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者で約4割(36.9%)、新規大卒就職者で約3割(31.2%)と依然高い水準となっています。
(令和2年度はコロナ禍の真っ只中だったので、転職を控える方が多く、それが離職率の低下につながったという見方があります)

早期離職の理由

厚生労働省「平成30年若年者雇用実態調査」によると、初めて勤務した会社をやめた主な理由は次のとおりです。

初めて勤務した会社をやめた主な理由(複数回答3つまで)

(厚生労働省「平成30年若年者雇用実態調査」)

年齢ごとに多少順位は違いますが、「労働時間」「人間関係」「賃金」「仕事内容」に関する項目が、上位3位までに上がっています。
離職防止対策を考えるうえで重要な視点となりますね。

早期離職する若者の相談事例

このような離職理由を反映していると思われますが、厚生労働省が開発した「若者応援キャリアコンサルタント育成研修」の資料によれば、就職後に支援が必要な若者の例として、以下のような相談事例が紹介されています。

➀学校を出て親の意向を踏まえて就職したが、「働き方がわからない」と感じて不安だった。
➁仕事内容そのものは嫌ではなかったが、ただ拘束時間が長く、「仕事しかしていない」状態が続くのか…と思ったら耐えられなかった。
➂面接の時に「企画開発の仕事をしたい」と言っていたのに、ずっとつまらない「顧客管理の仕事」をさせられていた。
➃上司や先輩からいろいろな仕事をふられ断り切れずに一人で仕事を抱え込み、会社に迷惑をかけてしまった。
➄先輩と仕事の進め方で喧嘩をした。とりあえずは上司の仲裁で仲直りしたが、このままずっと先輩と…気が重くなった。

私たちの周りにも同じような悩みを抱えている新入社員は、少なくないと思います。

すぐ実施できる新入社員の早期離職防止対策

以上の「離職理由」「相談事例」から、賃金や休暇制度など働き方をめぐりさまざまな対策が検討されています。
ここでは「新入社員の定着・成長支援」という視点で、比較的「すぐに実施できる、すぐに意識できる」対策をお伝えします。

「新入社員の定着・成長支援」に必要な視点として、次の3つが挙げられます。
➀存在実感(自分はどれだけ存在価値があるかという実感)
➁成長実感(自分は今、どれだけ成長しているかという実感)
➂成長予感(自分は将来、どれくらい成長するかという実感)

これらの視点については、みなさんも「確かに…」と思われるのではないでしょうか。しかし具体的な対策として「何を」「誰が」「どのように」と考えようとすると現場ではなかなか難しいものです。
そこで、比較的取り組みやすい2つの対策をご紹介します。

(1) 早く組織に馴染むための支援(「経験学習」の機会をつくる)

入社後の仕事経験の状況を見て、新入社員が自身の経験を振り返る機会をつくります。
2人以上の対象者を前提にしています。※1人のときは、上司と一緒に行う。
➀経験の振り返りと言語化
「仕事の内容・姿勢」「失敗したこと」「成功したこと」「経験から学んだこと」などを言語化する。
➁経験の共有化・気づきの促進
対象者が相互に言語化した経験を共有する。「他者の経験からの学び」「他者が気づいていないことを考える」「自身の新たな気づき」などを通して、行動計画を策定する。

以上の学習の機会を通じて、「存在実感」「成長実感」「成長予感」を感じるように支援します。
個人面談(キャリアコンサルティング面談)によって、対象者自身が「自分の価値観や働きがいなどの心の内面」にも向き合うことができるような仕組みも効果的です。

(2) 組織のコミュニケーション促進支援(上司の傾聴力強化)

「組織のコミュニケーション促進」というテーマは、企業にとって優先順位の高い課題として、さまざまな取り組みが行われています。
ここでは、新入社員の離職防止の観点で一番影響がある「上司のコミュニケーション」に絞った対策として、「上司の傾聴力の強化」についてご提案します。
傾聴力の向上のために「さまざまな対話の方法や姿勢」を学ぶことも重要ですが、まずは、「部下の話を聴くときの心がまえ」を意識してください。

<部下の話を聴くときの上司の心がまえ>
➀部下のことをよく知りたいと思って聴く
・部下に何か課題があれば支援したい。そのために、部下のことをよく知ることが必要。
➁部下との信頼関係を深めたいと思って聴く
・話を聴く機会は、部下との信頼関係を深める時間と思って聴くことが必要。
➂部下の成長を期待する気持ちをもって聴く
・心の底から、部下はもっと成?して期待に応えてくれると思って聴くことが必要。

いかがですか。新入社員を迎えた上司が、このような「心がまえ」をもって定期的に部下と向き合うことで、部下は間違いなく「存在実感」「成長予感」を感じることでしょう。

以上、新入社員の早期離職防止対策として、「すぐに実施できる、意識できる」取り組みをご紹介しました。ぜひご検討ください。

なお、若者の早期離職防止対策に関するご相談がございましたら、お気軽に「傾聴共感研究所」にお問い合わせください。